その手で触れて確かめて
第4章 戸惑う唇(O × S)
テーブルにトレイを置き、翔のベッドにそっと歩み寄り腰かけ、
シーツの上から翔の体を揺らした。
「翔、お粥だったら大丈夫?」
潜めても、俺の声がうるさく感じるぐらい静り返る部屋の中で、
テーブルの上に置いたものを取ろうとして、
俺がベッドから立ち上がった時のスプリングの音が加わって、
それを優しい音律に変えるかのように甘い香りが漂った。
「少しでも食べないと体に良くないから。」
再び翔の隣に座り、翔の嗅覚に訴えかけてみたりもしたけど、
顔を出すどころか、身動きさえしてくれない。
これは、嫌われちゃったかなあ?
と、宥めるように翔の体を擦っていた手を止めて立ち上がりかけた時、
俺を引き止めるかのように、翔のお腹の虫が盛大に鳴いた。
恥ずかしそうにシーツから顔を覗かせる翔を見て、
俺は思わず声をたてて笑ってしまった。
顔を真っ赤にし、また、潜り込もうとする翔のシーツを引きずり下ろす。
「じゃあ、観念して食べてもらおうかな?」
翔のシーツを完全に取っ払うと、
お粥の入った器から1匙掬い、唇を突きだし息を吹きかけ冷ましてやる。
そして、翔の口元に匙を近付けて、意味ありげに笑ってみせた。
「はい、じゃあ、口開けて?あーん。」
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