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その手で触れて確かめて

第4章  戸惑う唇(O × S)



きっと気のせいだ、と自分に言い聞かせながら、



頂き物のケーキを一緒にトレイに乗せて、翔の部屋をノックした。



中から少し慌てた様子の翔が顔を覗かせる。



ちら、と中を盗み見ると、学校で使う教科書や問題集が、テーブルの上に広げられていて、


見るからに、一緒に勉強してました、という感じだった。


でも、確か、亀梨くんの制服は、


この辺じゃ、医学部合格率が1、2を争うってぐらいの名門校の制服じゃないのかな?



そいつらが一緒に勉強、って…?



「何してたんだ?」


「え?な、何って、勉強だよ?」



何故か、狼狽えている様子の翔。



「いや…じゃなくて、何勉強してたのか、聞きたかったんだけど。」


「あ、ああ、英語!英語だよ。」


「ふうん…そ、か。あ、これ。」



部屋には入らずに、コーヒーとケーキがのったトレイをドア越しに手渡し自分の部屋に戻った。



自分の部屋に戻ってからしばらく、


翔の部屋のドアを閉める時に、一瞬だけ目が合った、


あの、亀梨という少年の突き刺すような目線を思い出す。



やっぱり、気のせいなんかじゃない、



単なる憎悪を通り越して、




大袈裟でも何でもなくて、




細い針で突き刺すような殺意を感じた。





それからしばらくして、


その亀梨くんが事故で亡くなった。


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