その手で触れて確かめて
第4章 戸惑う唇(O × S)
翔は、
事故で亡くなった男子高校生の噂は知っているらしかったが、
まさか、あの亀梨くんだったと夢にも思っていなかったらしく、
その話を聞いてからは、部屋から出てこようとしなかった。
だが、告別式の朝、
泣き腫らした顔のまま出かけていった。
その日の昼休み、
しつこく付きまとう岡田の隣で、
仕方なく一緒にパンを食べていたら、突然、勢いよく教室のドアが開いて、
翔がこちらに向かって走り寄る姿が目に入った。
有無を言わさずその手を掴まれ、教室の外へと連れ出される。
人気のない場所まで来ると、事情も分からず連れ出されたことにムカついて、
翔の腕を振り払った。
「何なんだよ、一体?こんなところに連れてきて!」
翔は、蚊の鳴くような声でごめん、と言ってから、
やはり、聞き取るのがやっとの小さな声で、お願いがあるのだ、と続けた。
「何か…あったのか?」
俯き唇を引き結んだままの翔の顔を覗き込む。
すると、翔は、
あれは事故なんかじゃない、殺されたんだ、と、
小さいけど、力強い語調で何度も、何度も繰り返した。
翔のことを信じていない訳じゃなかったけど、看過することも出来なくて、
教頭に掛け合って応接室を借り、そこで話を聞くことにした。
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