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おさななじみ。

第2章 せいちょう。

「しんどいなあ」
自分以外に誰もいない部屋で呟く声は、すうっと壁に吸収されていく。呟いた後の静寂をよりいっそうのものへと変える。
何故こんなにももどかしい気持ちになるのだろう。両思いになれて嬉しい気持ちはもちろんある。気持ちが通じあってから余計な心配はなくなった。代わりの心配はあるものの、以前に比べればずっと幸せなはずだ。
なのに、胸に何かがつっかえている感覚は何だろう。
「恋人らしいこと…」
もちろん今のままでもいい。だけど折角恋人同士なのだ。少しは望んだっていいじゃないか。こんなこと孝基からしたらバカらしい悩みなのだろうか。
手は繋いだ。…その先は?求めても大丈夫?少し前までは友人のまま傍に居られればいいと思っていたくせに。
自分の貪欲さに嫌気がさす。
由樹は布団に顔を埋めたまま考える。孝基はどうなんだろうと。この前の話を聞く限り孝基はとっくに自分と付き合っているつもりだったはずだ。
なのに手を繋ごうとすらしてこなかった。してきたのはお互いに気持ちをしっかり打ち明けてから。
「物欲しそうな顔しちゃってたのかなあ」
それはそれで溜め息が出てしまう。死ぬほどはずかしい。
無意識に下唇を指先でいじる。多少の女々しさがあるせいか手入れをしているためそこら辺の男子よりはぷにぷにと柔らかいと思う。
そんなことをしてまた自己嫌悪。
これじゃあまるで欲求不満じゃない。
「…そのものか」
深い溜め息が部屋のなかに木霊した。

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