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第72章 願わくば花のもとにて… by millie


智…なんでいなくなった?

兄弟であることが何の障害になる?

ずっと一緒にいてもだれも咎めない。
女の違って禁忌の子を孕むことも無い。

なのになぜ…俺じゃなくてあいつの手を取った?

智が俺の前から姿を消した。
櫻に拐われたんだ。

そいつのことは知っていた。
いつか智を取られるんじゃないかと警戒してたのに…。

まんまとやられた。

智の残した置き手紙。
涙で滲んだ綺麗な筆跡。

行方は杳として知れず俺は絶望の底に沈んだ。
あの日から桜は最も嫌いな花になった。


幾つの季節が巡って虚ろな日々を過ごしていた俺のもとに突然入ってきた報せ。

俺は急いで現地に向かった。

北欧の小さな街にいた智。
発見されたとき、智を拐ったアイツはそこにはいなかった。

現地の警察の説明や周りの証言を纏めるとどうやら心中しようとして…智だけ助かったらしい。

智に聞いてもなにも答えはしなかった。
ショックから当時の情況も二人が過ごした日々も総て記憶から抜け落ちていたるのだろうと医者は言った。

幼な子のような兄を日本に連れ帰った。

帰国後、智の持ち物の中にあった手帳の中にアイツの心の内が記されていた。

あの人は自らの命と引き換えに兄の心の一部を持ってったんだ…。

智の内に巣食う罪悪感というものを…。

あの日から見るのも辛かった櫻。
その気持ちは霧散した。

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