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第78章 ひとひらの記憶 by アロエリーナ

ぼんやりと眺めた地面は、散り尽くした花弁で覆われていて。


おもむろに見上げると、殆ど葉桜の樹に
たった一輪だけ残った花。


手の届く枝にあったそれを、そっと手折る。



「最後の桜…力を貸してくれない?

僕とお前が過ごした時間を、辿らせて」



ぷつりとひとひら、摘んで空に放った。


「…会いに行くよ。待ってて、潤」


僕の寝顔は、とても気持ち良さそうだ。



……


「さとしくん、卒園おめでとう」


満開の桜の下、可愛いクマさんのエプロンを着て、ニコニコ微笑む男性。


「…しょーせんせい?」


そうだ。大好きな先生で、僕の初恋の人。


「やっと泣き止んだね」


…僕、先生と離れたくないって駄々こねて
家まで送ってもらったっけ。


「ぼくのサクラみせたげる」って
ここまで連れてきちゃって。



「大きくなったら、またお花見しようね」


「ぼく、はやくおおきくなるね!」


「ゆっくりで、いいんだよ。

子供でいる時間はとても短く、大事だからね」


「せんせい、ありがと」


守られて、愛された、温かい記憶。



僕はまた花びらを、ひとひら千切って投げた。

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