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第78章 ひとひらの記憶 by アロエリーナ



……

肌を刺すような、冷たい木枯らし。

黄色や橙で賑やかだった葉も、すっかり落ちてしまっている。



「…智さん、なんで高校辞めるんだよ」


切羽詰まった様子の彼に迫られて。

桜木の幹を背に、そっぽを向く僕。



「…やりたいことが、他にあるんだよ。

和だって、学校つまんねーと思うだろ?」


「だからって…」


なぜか僕に懐いて、在校中いつもくっついてきた後輩。


ウザがってたけど…可愛い奴だと思ってた。


中途退学する日、最後だから…って
一緒に帰って、話し込んだよな。


…また、戻る時間を間違えた。


ポケットの桜に手を伸ばそうとすると、
和にふわりと押さえられる。


「ダメ…次の季節に、行かないで」


強いまなざしと口調に、尻込みした。


「和、分かるの?今の僕が…」


彼は泣きそうな顔をして、俯いた。


「…なんとなく…あなた、悲しそうだ。

おれと一緒に、違う未来を生きよう?」



そっと、和の胸に手を置いた。


「ムリだよ…僕の体は、置いてきたもの。

僕はずっと、お前の心の中にいるよ。

会いたくなったら、この桜を見においで」



ごめんね…。少し切ない、別れの記憶。


ぽろっと涙を零す和の前で
四枚目のひとひらを、風に浮かべた。

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