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第94章 雨夜に咲く花、恋花火 by namako


夕方になっても雨は止むことはなかった。

そして翔君も、寝室に引き篭もったまま、一向に出て来る気配はない。

翔君が拗ねる気持ちは分からなくもない。
俺だってこの日を楽しみにしてたんだから。

俺達が“運命”とも言える出会いを果たした日に、毎年行われる花火大会。

普段は記念日なんて、誕生日すら気にしない俺も、唯一この日だけは忘れることは無い。

どっちが悪いわけじゃない。
悪いのは“雨”。
それだって自然現象なんだから、仕方のないこと。

でも、こんな風に大切な記念日を過ごすのは、俺としても本意ではない。

「はぁ…なんとかしねぇと…」

溜息と同時に視界に飛び込んで来た、翔君が俺の為に選んでくれた甚平。

綺麗に畳んで、ソファの上に置かれたそれに、俺は袖を通した。

そこからの俺の行動は早かった。

「確かまだ残ってる筈…」

必要な物を全て揃えると、それを片手に、翔君が籠ったままの寝室のドアをノックした。

返事はない。

俺はドアを開け、浴衣のままベッドでふて寝する翔君の肩を揺すった。

「ちょっとだけ俺に付き合ってくれる?」

泣いてたんだろうね…
瞼が赤く腫れていた。

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