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第96章 君棲む君と…。 by つぎこ





階段を上がり、この建物の中にたった一室だけ設えられた病室の前に立った。

深呼吸して…。
それでも浮かない気分でドアを開ける。

そこは相変わらずに、
とても病室とは思えない格上ホテル並みの誂えで…。

ベッドに横たわる彼の腕には、点滴が繋がれている。


「…。」

なんだよ。
こんなとこで寝てんなよ…。

乾いた音を静まりかえった病室に響かせた。

「…さ…と? 」

頬に喰らった衝撃に、僅かに意識を呼び戻してくれて…。

「…帰るおうち、間違ってない? 」

にっこりと笑い掛けてから、点滴の針を抜いてやった。
彼は朦朧とした意識の中で、にっこりと笑い返してくれて…。

ヤブ医者、ね…。

上等だよ。

だけどこの病はね、点滴なんかじゃ、治すコトはできないの。


綿毛布を剥いで、彼自身に触れる。布越しに緩々に撫でてやりながら、できるだけ優しく訊くんだ。

「…どしたの? 」

何にそんなに拗ねてるの?

「…キ、ス…して、た。」

緩やかな熱を与えつつ、現実を呼び起こして…。

「…キス? 」

「…あい、ば、せんせ…。」

相葉先生とキスしてた…。

それを言いたいんだね。


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