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秘密のおとぎ夜話

第8章 【赤ずきん】祖母の異変


はだけた毛布の下では、黒々とした人型の塊が祖母の白い裸体に覆いかぶさっていた。

祖母の手足はその胴体に回され、渾身の力で抱きしめているように見える。

足がすくんで動けない赤ずきんをよそに、祖母はビクン、ビクンと数回身体を弾ませると、力なく手足をシーツに投げ出した。

「おばあちゃん!?

……いやああ!!!」

赤ずきんは戸口に立ったままで叫ぶ。

「それ」がこちらを振り向いた。

森の奥に住むオオカミ族。半獣半人で、ヒトを襲うと恐れられている生き物。

黒い頭髪はそのまま首筋や背中にもびっしりと生え、鋭い爪が肉食獣を思わせる。
顔や腹部、手のひらなどは人間に似た皮膚で覆われ、見た目も似ている。

赤ずきんは本物を見たことがなかったが、家にある絵本のオオカミは、狂った目をして真っ赤な口を開け、女の子を食べようとしている猛獣として描かれている。

絵本の絵ほどの恐ろしさはないものの、その特徴は聞かされてきたとおりのオオカミだ。だけど、振り向いた瞳からは乱暴さが感じられなかった。

「大丈夫だよ、お嬢ちゃん。おばあちゃんは気持ちよすぎて寝ちゃっただけだから。」

低く優しげな声が聞こえて、赤ずきんはまた驚く。


(思っていたのと、ちがう…?)



「おばあちゃんを殺してないの?」震える声で確かめながら、初めて見るオオカミを観察する。

体格はヒトの男性と同じか少し大きいくらい。ヒトで言えば成人したばかりの男性のように若々しいエネルギーを匂い立たせている。

吊り上った目。瞳の色は銀色で、肌は日焼けした農夫のように褐色。通った鼻筋と薄い唇から、知性すら漂ってくることに赤ずきんは戸惑う。

そんなオオカミは祖母に毛布をかけなおすと、ベッドから離れてゆっくりと近づいてくる。

「殺したりなんかしないよ。君のおばあちゃんは僕の…大事な大事な友達なんだから。」



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