秘密のおとぎ夜話
第8章 【赤ずきん】祖母の異変
「お、ともだ、ち……??」
赤ずきんは自分が抱いてきたイメージとまるきり違うオオカミに混乱しながら、母の声を思い出していた。
『森は危ないよ、オオカミが出るから――――。』
幾度となく聞いた言葉だ。
どうしてそんな危ない森の中に、おばあちゃんが一人で住んでいるのか、今までは分からなかった。でも。
「おばあちゃんはお友達だから、オオカミさんが怖くないのね?」
赤ずきんが立っている場所から見える祖母の顔は穏やかで、毛布の下の胸もちゃんと呼吸のために上下している。
「ああ…怖かったあ~。
おばあちゃん、食べられちゃうのかと思った……」
少女は安堵のあまり床にへたり込みながら、オオカミにふわっと笑顔を見せた。
そんな赤ずきんに少しだけ目を見張り、オオカミはこう言った。
「僕たちはヒトを食べたりしないよ。女の人と特別な『遊び』をするのが好きなだけなんだ。
それが楽しすぎて村に戻らない女の人が多かったから、僕たちは猛獣として遠ざけられた。
おかげでオオカミ族の数はずいぶん減ったんだよ」
少し寂しそうに話すオオカミに、赤ずきんの胸は痛んだ。
「みんなで遊べばよかったのにね…?」
無邪気な発言にオオカミはくすくすと笑う。
「女の人だけが森から帰ってこなくなったら、村がつぶれちゃうからね。仕方ないんだよ。」
このオオカミはヒトを恨んでいるわけではないようだった。
ふと、赤ずきんは気が付く。
「おばあちゃんは、その『帰ってこない女の人』なの?」
祖母が村にとって望ましくない存在なのか、という疑念が、少女の顔を曇らせる。
「違うよ。君のおばあちゃんはね、村と森の間で、僕が満足するまで『遊び』をしてくれる。つまり村のみんなから見れば、守り神みたいなもんさ。
それから、僕に文字を教えて、本を貸してくれた。乱暴なだけのケモノに育っちゃだめだって教えてくれたんだよ」
その言葉に赤ずきんは安堵し、虐げられているオオカミ族にも優しく接する祖母を誇りに思った。