
コケティッシュ・ドール
第1章 気になる隣人
「優しい人だよな」
先輩はぽつりと呟いた。
「わざわざ自分の仕事場から遠回りして送ってくれるなんてさ」
「えっ?」
嘘でしょ。
「知らなかったのか?」
先輩は驚いた表情で見つめ返してくる。
「てっきり広田さんの職場もこっちなのかと…」
「違う違う、駅の近くに『松尾工業』って会社があるだろ?そこで配管の仕事やってるんだよ」
そういえばあったような気がする。
駅まで歩いた時、随分綺麗な建物だなあ、と思って通り過ぎた。
広田さん配管工だったんだ。
どうりで体格がいい訳だ。
…どうしてだろう。
さっきまであんなにも怖かった広田さんが、少し愛しいように思えてくる。
