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心の色

第2章 <後悔の記憶>

Aの脳裏に、忘れたくても忘れられない後悔の記憶がよみがえった。
実は、黒色の感情をみたのはこれが初めてではない。
以前も同じような黒の感情色を持った人物を見かけたことがある。
その時も駅構内であった。
その人物はまるでとおせんぼをするかのように、コンコースの雑踏に立っていた。 そんな影人間を、心なしか周りの人々は避けるように道をあけているようにも見えた。
その時突然、影人間の体をまとう影が、まるで触手のように伸びはじめた。
触手は、すぐ近くの仲良さそうにおしゃべりをしているカップルに伸びていく。
カップルは、温かみのあるほのかなオレンジ色に包まれていた。
と、伸びた陰の触手がそのオレンジの光にまるで、喰らいつくようにくっつくと、侵食しはじめた。オレンジの光がまたたくまに薄れていった。
その光景に衝撃を受けたAは、腕時計を見て少し迷ったあと、その影人間の後をつけてみることにした。
純粋な好奇心と、ちょうどこの後に取り立てて急いで家に帰る理由もなかったことが一つ、そして何よりも日に日にXがまとう闇が濃くなっているように見えたのが気になったためというのもある。
Aは、首筋の毛がちりちりと逆立つような、漠然とした不安を覚えながら影人間の後について駅前のエスカレーターをのぼり連絡通路を進んだ。
京急線ですぐの駅で降りた影人間は、通いなれた道をいくように迷いなく歩き出した。やがて自宅らしきアパートに入っていった。
なんだ、やはり気のせいだったな。Aはひとりごちた。
今だに、ちりちりと逆立つ首筋の産毛のことは、あえて気にしないことにして、Aは駅へと引き返した。

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