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心の色

第3章 追跡

Aは、あの出来事のあとからずっと、後悔と自責の念にさいなまれた。
あの時、影人間の後をおってチャイムを鳴らしていれば、凶行を止められたのではないか、と何度も自問した。
悪夢を見て、夜中に飛び起きることも数えきれない。
忌まわしい記憶を振り落とすように頭をふった。
おそらく、黒い感情は殺意を示しているんだ、とAは結論付けていた。 つまりあの人物もこれから何かをおこすはずだ。おそらく、殺人を。
警察をよぼうか。Aは迷った、でも何て説明すればいいんだ? あの人はこれから殺人を犯すのでつかまえてくださいって?
「あの日、誓ったじゃないか」 Aは影人間の後を着けながらひとりごちた。「もう二度と迷ったりしないって」 再びめぐって来たこの贖罪のチャンスを逃すことはできなかった。
30分ほど電車に揺られて着いた駅で下車した影人間はタクシーに乗り込んだ。
Aは慌ててロータリーにとまっていたタクシーを捕まえて追跡する。しかし支払いに戸惑っているうちに影人間を見失ってしまった。
住宅街をあてもなく走り回る。呼吸が苦しいが、それ以上に間に合わないという切迫した気持ちで鼓動が激しくなった。
その時、小さな悲鳴のような声が聞こえたような気がして、Aは耳をすました。近くの一軒家から、ガラスが割れるような物音が聞こえ、Aは後先をかんがえずに飛び込んだ。

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