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心の色

第4章 <惨劇>

ドアを開けたAの目の前は赤だった。
玄関の床に広がった血だまりのなかに、中年の男性がうつ伏せに倒れていた。
悲鳴もわすれ、恐怖と驚きのあまり腰をぬかしてその場に尻もちをついてしまった。
むっとした鉄のような匂いにむせそうになった。
ゆっくり深呼吸をして、気持ちを落ち着かせたAは、倒れた男性の体をそろそろとまたぎ、部屋にはいった。廊下を奥に進むとキッチンにつきあたった。そこには中年女性が壁にもたれるようにして座り込んでいた。その上に覆いかぶさるようにして若い女性がうつ伏せに倒れ込んでいた。
「だ、大丈夫ですか?」抱え起こそうとした女性の背中が真っ赤に染まっているのに気がつき、「ひっ」思わず飛び出した悲鳴を、口をおさえて押し殺す。 改めて女性を抱えて仰向けにさせた。女性の顔からはすっかり血の気が引けて真っ白になっていた。ふと脇をみると、下にたおれていた中年女性の、自身の両手でおさえたその腹部からは今もなお血があふれていた。
混乱し、思考が停止してしまったAの耳にガタっと大きな物音が聞えた。
頭上からだ。「2階か?!」その音で我に返ったAは、そっと女性の体を床に横たえると、玄関脇の階段をかけのぼった。
階段をあがった正面突きあたりの部屋の前に、影人間がいた。全身を包む闇は、さきほど駅で見かけたときよりもさらに禍々しく、巨大にふくれあがり、うねうねと動く触手のように廊下いっぱいに広がっている。あまりの闇の巨大さと濃さに、Aは暗闇の中に突如放り込まれたように平衡感覚をうしなった。

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