テキストサイズ

←Orphanage→

第2章 薬種商

…今朝は珍しく早起きした。
外はまだ暗くて、灯りの消えた書庫の中は気味が悪い。
あまり期待はせずにランプを探したが、存外簡単に見つかった。 火をつけられないんじゃ使えないけれど。
また昨晩のように暇ができてしまった。
こういう時に限って二度寝できないのは、決して僕だけじゃないだろう。
そういえば今日迎えに来てくれるのはどんな人だろうか。
薬を扱うんだから学者肌で気難しいのかも。だったらちょっと嫌だな。できるだけ親切な人がいい。
ここじゃなくても、うんと楽しく暮らせるような。
思わず口元が緩んで、それからふと思った。

ここじゃ、なくても?

そうだ。僕が孤児院にいられるのは今日だけ。もっと正確には今日の昼までだ。
施設を出たらもう今まで通りにいかない。
あの煩い鈴も聞こえなくなる。
同じ部屋で寝る人もいないのかもしれないし、遊ぶ時間も減るだろう。
もちろん悪いことだけじゃないのはわかってる。
でも悲しいものは悲しい。気付いたら泣いていた。
枕代わりにしていた本を閉じる。
そうしないとページが濡れてしまいそうで。
「…はは。ダメだなぁ。施設長とか、来ちゃったら…どうすんだよ」
どうにか堪えようとして強がりを言った。
でも本心は違う。
誰か来てくれ。
少しでも長い間、一緒にいたい。
寂しい。
…怖いよ。

何かが切れて 早朝の薄暗い書庫で声をあげて泣いた。

応えてくれる人は、いなかった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ