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第2章 薬種商

「…ク。アレク」
冷たい手。のんびりした、怠そうな声。
今になっては、それですら大切に思える。
重い瞼を開いて、体を起こした。
視界の端に映ったラックはいつになく曇った表情を浮かべている。
「アレク」
「…なに? あ、施設長…怒ってたかな」
ラックは小さく首を横に振って「時間」とだけ言った。
古い壁掛け時計を見ると、もうすぐ迎えがある時間だった。支度は昨日の昼食のあと済ませているので遅れる心配はなさそうだ。
毛布に再び潜り込んで着替え始めてすぐ、肩を叩かれた。 …あ、結構痛いな。誰だろ。
「あっ、着替えてたの?ごめんなさい。お兄様から預かり物を渡されてるの」
クーザが僅かに顔を赤くして小包を差し出した。ミツキらしい淡い色の袋だ。
「中身は私も知らないのだけど…今すぐには使えないから、行き先で開けろって」
多分本人は恥ずかしくて言ったのだろうが、残念ながら予定が入ったためチビっ子と一緒に病院に行っているらしい。
昨日のあのチビさん達の怖がりようからするに、注射を受けにでも行くんだろう。
ちょうど着替え終わったタイミングで施設長から呼び出しがあった。

ついに来たらしい。

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