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素晴らしき世界

第31章 向かい合わせ

「今日もかわいいでちゅねー」

ガラス窓に張り付いて、
産まれたばかりの赤ちゃんを見つめる潤。


キャラ……変わった?


「おい、見てみろ!欠伸したぞ」

呼んでいるけどこっちを向くことなく、
手だけで俺を手招きしてくる。

「で、どの子なの?」

潤の隣に立つと、
ガラス越しの赤ちゃん達を見渡す。

「はぁ?マジで言ってんの?
この子たちに決まってんだろ!」

指差す先には、男の子の女の子の赤ちゃん。

「眉毛の感じは俺に似てるし……
鼻の形は和也に似てんだよ」

力説してくれるが、
俺にとってはどの赤ちゃんも似たり寄ったり。


なんて言うと、殺されるだろうな。


「あれ?潤、来てたの?」

後ろから声が聞こえて振り返ると、
和也くんが立っていた。

「こら、安静にしてなきゃ駄目だろ」

さっきまで赤ちゃんにメロメロだったのに、
今は和也くんしか目に入っていない。

「大丈夫だよ。明日には退院するんだから、
寝てばっかりってわけにはいかないでしょ?」

「だからこそ、今は休まなきゃ」

腰に手を回して、病室に連れ戻そうとする。



それはまさに夫婦、そして家族の姿。



「ちょっと待って!
お久しぶりです、櫻井さん」

立ち止まると振り返って俺にニコッと微笑む。


その姿に気まずさは全くなくて……


「お久しぶり、出産……おめでとう」

「ありがとうございます」


昔、感じた寂しさは微塵もなかった。


「あっ、まだいたの?」

「ちょっと、潤!もし良かったら
飲み物どうですか?ちょうど買うところで……」

手に持っていた財布を俺に見せた。

「飲み物なら冷蔵庫にあっただろ?」

「実はお世話になってる先輩が
お見舞に来るって連絡があって」

「だったら尚更、帰った方が……」

「大丈夫ですよ?
気を遣うような先輩じゃないんで」

何気に先輩に失礼じゃないか?と思いつつも、
やっぱり居づらさは否めない。

「やっぱり俺、帰るわ」


チーン…


その時、タイミングよくエレベーターが到着した。

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