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素晴らしき世界

第31章 向かい合わせ

「取りあえず、座って下さい」

部屋には2人掛けのソファーと、
潤が端にあった丸椅子を出してくれたけど
互いが互いに気を遣い合って立ち止まったまま。

「俺……こっちに座りますから」

丸椅子を自分の方に引き寄せると、
ソファーを2人に譲った。


この状況ではこれが得策だ。


「ありがとうございます」

大野さんが俺にペコっと頭を下げると、
隣にいる雅紀も下を向いたまま会釈する。


他人行儀な仕草に勝手に傷づく自分がいた。

って、俺たちはもう他人なんだよな……


「お待たせしました」

俺たちがそれぞれ腰掛けると、
手にたくさんの飲み物を持った
和也くんが帰ってきた。

「大丈夫か?」

「これくらい平気だよ」

潤がサッと和也くんの元へ駆け寄ると、
持っていた飲み物を受け取る。

「これは潤のだから」

「おう、サンキュ」

そのうちの1つを和也くんが抜き取った。


2人には悪気はないが……

夫婦のやり取りをまざまざと見せつけられる。


思わず逸らした視線の先にいた雅紀は、
その2人の姿をジッと見つめていた。


雅紀は……何を考えてる?


「良かったら、どうぞ」

俺たちの方に飲み物を差し出す潤。


あっ、これ……


「相葉くんはこれだよね?」

「あっ、はい……」

大野さんは俺が見つめていた飲み物……

雅紀の好きなものを迷いもなく取ると、
そのまま差し出した。


その姿に雅紀と大野さんの関係を何となく察した。


「ありがとうございます」

潤にペコっと頭を下げると飲み物を受け取った。

「どっちがいいですか?」

「どちらでも……」

「じゃあ、こっち貰いますね」

そして俺は残った飲み物を潤から受け取った。


本当は……

大野さんの持っているカフェラテが良かった。


雅紀は知ってるよね?


俺が好きだって。


でも、何も言ってはくれなかった。


自分だって何も言ってないのに勝手に期待して……


バカだな、俺。

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