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素晴らしき世界

第31章 向かい合わせ

空調の音が聞こえるほど静かな部屋には
変な緊張感が漂っている。


俺が話しかけるべきなのか……

話しかけるって言っても、
一体何を話題にしたらいいのか……


俺たちを見て大野さんが驚いたって事は、
それなりに俺たちの関係を知っている。

って事は、俺は確実に最低なヤツだと
大野さんにインプットされているに違いない。

なら益々、俺は話しかけるなんて出来ない。

やっぱりここは俺が帰るべき。



そう思っても、帰る事ができない。



雅紀が今、そばにいる。


ずっと会いたかった。


連絡すれば会えたかもしれない。


でも……


『現在使われておりません』


そんなガイダンスを聞きたくなかった。

雅紀と繋がる唯一の手段を失いたくなかった。

そしてその事実を……知りたくなかった。


でももし電話番号を変えていたら?


ここを出ていけば……

2度と雅紀と会う事は出来ない。


結局俺は何も出来ないし、
立ち上がってここを去る事もできない。


「俺…っ、帰ります!」

沈黙を破ったのは雅紀だった。

ソファーから勢いよく立ち上がると
そのままスタスタと歩き出した。

「えっ、相葉くん!待ってよ」

大野さんが立ち上がって手を伸ばすけど
間に合わない。

「おわっ!相葉さん?」

電話から戻ってきたであろう潤の驚く声が聞こえた。

「ちょっと、相葉さんが
もの凄い勢いで出ていったんだけど……」

和也くんも慌てて戻ってきた。

「いや、急に帰るって……」


三者三様に驚く声と様子を、
俺はただ他人事のように見つめていた。


「おいっ、翔!」

「ん?」

「ん、じゃねーよ!追いかけねぇのかよ」

潤が雅紀が出ていったドアを指差した。

「なんで?」

「何でって……わかんだろーが!」

胸倉を掴むとそのまま俺を無理やり立ち上がらせた。

「ちょっと、潤!止めてっ!」

「おいっ、翔!」

潤の手を掴んで必死に引き離そうとする
和也くんの手に誰かの手が重なった。

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