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素晴らしき世界

第11章 ショートストーリー

ベランダに出て夜空を見上げる。

一年前まで隣にいてくれた
あの人はもういない……

夜になる度に思い出しては、涙が溢れる。

すると、夜空に光が流れる。

やけにスローモーションに見える
その光に願い事を三回唱えた。


『智に会いたい』


唱え終わると、光は消えていった。

そんなこと願ったって叶わない。

虚しいだけだ……


「潤……」


俺の名前を呼ぶ、愛しい人の声。

振り返ると、ニコッと笑った
愛しい人が立っていた。

「智っ……」

ゆっくりと智の元へ歩いていく。

「もう、泣きすぎ」

溢れてくる涙を指で拭ってくれる。

「ずっと会いたかった……」

「ごめんね。寂しい思いさせて……」

俺は首を横に何回も振った。

「ねぇ、ずっとそばにいて……
もう、離れないで……」

俺の言葉に智は首を横に振った。

「今日は、お別れを言いに来た」

「嫌だ……」

「もう、俺はこの世にはいない。
潤には、前を向いて歩いてほしい」

「嫌だ、やめて!聞きたくない!」

俺は両手で耳を押さえた。

「ダメ、ちゃんと聞いて」

俺の耳を押さえる手に智の手が触れた。

冷たかった……

そして、ゆっくりと俺の耳から
手が離されていく。

「今まで俺のことを想ってくれてありがとう。
きっと、俺より大切に想える人に出会う。
その人と幸せに人生を歩んで。
俺の分まで……」

智が光に包まれていく……

「行かないで……智!」

抱きしめようとした腕は空を切った。

それと同時に無数の光の粒が弾けて消えた。



あれから一週間が経った……

あの日からいつものように
夜空を眺めるが光が流れることはなかった。

すると、玄関のチャイムが鳴った。

モニターを見ると見知らぬ男性が立っていた。

「どなたてすか?」

「夜遅くにすみません。
隣に引っ越してきたものです」

「はい、ちょっと待ってください」

俺は玄関に行き、ドアを開けた。

「遅くにすみません。
隣に引っ越してきた櫻井です。
よろしくお願します。」

「松本です。よろしくお願いします」

「俺、引っ越してきたばかりで
この辺のこと知らなくて……
図々しいとは思うんですけど、
色々と教えてもらったりしていいですか?」

「はい、俺で良ければ……」


『新しい出会いの始まりだよ……潤』


end

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