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素晴らしき世界

第11章 ショートストーリー

理科室のドアをノックする。

「はい」

ドア越しに聞こえる声だけで
身体が熱を帯びる。

「松本です」

「入っていいぞ」

「失礼します……」

大きく深呼吸してドアノブを回して押した。

すると、腕を引っ張られ
目の前にある胸に吸い込まれる。

それと同時にドアは閉まり、
カチッと鍵のかかる音がした。

「先生っ!」

背中に腕を回した。

「今は先生じゃない」

俺は胸から顔を離して見上げる。

「翔……」

髪を撫でられ、その指が頬を通り、
顎をグイッと持ち上げる。

じっと見つめられたままで、
俺が望むことをしてくれない。

「ねぇ……」

「どうしたの?」

意地悪な笑顔を俺に向ける。

「……キスして」

唇に触れるだけのキス。

足りない……

もっと翔が欲しい……

俺は翔の後頭部に手を回し、
唇へと引き寄せた。

翔は少しだけ口に隙間を作り、
俺の舌を誘導する。

必死に俺は、翔の舌を絡める。

静かな理科室に、
ピチャピチャと淫らな水音が鳴り響く。

唇を離すと透明な液が糸をひき、
翔の唇は潤っていた。

「ねぇ?ちょうだい?」

俺の言葉を合図に
黒い年季の入ったソファーに
二人で雪崩れ込む。

それが俺たちの愛し合う場所。

愛し合う時間は短い。

それが終われば、
『先生』と『生徒』の関係に戻り、
愛する人のもとへ帰る。

俺たちは恋人がいるからこそ成り立つ関係。

お互いの恋人は姉妹だ。

愛する人を裏切って重ねる身体は、
快感を倍増させる。

でも、どちらかの関係が終われば
俺たちの関係も終わってしまう。

とっくに彼女への愛は冷めているが、
別れることはできない。


翔が好きだから……


でも、翔は違う。


恋人の妹の彼氏とのセックスが好き。


『俺自身』を好きなのではないのだから……


手を伸ばし、頬に触れた。

「ん?」

優しく俺に微笑む。

「好き……」

「俺も……」

いつもの返事が返ってくる。

決して『好き』とは言ってくれない。

言葉でも翔を繋ぎ止めることは出来ない。

だから俺は今日も身体で翔を繋ぎ止める。


今だけは俺を愛してください……


理科室を出るまでは……


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