Lost & Found
第1章 キッチン。クッキーを焼くおばさん。
「おひとつどうぞ」Aは、クラルオに言われるがままに手を伸ばした。
指でつまんだクッキーを口にほおりこむ。やはり生焼けだ。しかもまったく味がしないため、まるで砂を噛んでいるようだ。噛む端からぽろぽろとくずれていく。
「どうだい?」と見つめるクラルオに返す言葉を選びながら「えーと、」迷っていると、それを察したのか彼女は肩をおとした。
「最近調子がわるくてねぇ」 Aは、ああそうなんですね、体調が悪いんですね、と、さほど驚きもなくそのでっぷり太った体を見た。
けれども女性がオーブンにのせた手をぽすぽすと叩くのをみて、あ、これはもしかしてオーブンについての説明なのかもしれない、とAは気がついた。
「この子、まだそんなに歳じゃないのにさ」クラルオは言った。
「この間までは突然高温になったり、かと思えば急に温度が下がったり、元気だったのにさ」
Aは、「それはそれで問題なのではないでしょうか?」というニュアンスをこめて眉をあげた。
「元気ならいいじゃないか、だろ?」クラルオはオーブンをかばうように言った。「ところが、最近は温度がまったくあがらなくってね」
「味もしないですね」Aはさらなる欠点を指摘した。「そうかい?これはあれだよ、低カロリーだからね。ダイエット、ダイエット」たっぷりとした脂肪をゆすって笑った。
指でつまんだクッキーを口にほおりこむ。やはり生焼けだ。しかもまったく味がしないため、まるで砂を噛んでいるようだ。噛む端からぽろぽろとくずれていく。
「どうだい?」と見つめるクラルオに返す言葉を選びながら「えーと、」迷っていると、それを察したのか彼女は肩をおとした。
「最近調子がわるくてねぇ」 Aは、ああそうなんですね、体調が悪いんですね、と、さほど驚きもなくそのでっぷり太った体を見た。
けれども女性がオーブンにのせた手をぽすぽすと叩くのをみて、あ、これはもしかしてオーブンについての説明なのかもしれない、とAは気がついた。
「この子、まだそんなに歳じゃないのにさ」クラルオは言った。
「この間までは突然高温になったり、かと思えば急に温度が下がったり、元気だったのにさ」
Aは、「それはそれで問題なのではないでしょうか?」というニュアンスをこめて眉をあげた。
「元気ならいいじゃないか、だろ?」クラルオはオーブンをかばうように言った。「ところが、最近は温度がまったくあがらなくってね」
「味もしないですね」Aはさらなる欠点を指摘した。「そうかい?これはあれだよ、低カロリーだからね。ダイエット、ダイエット」たっぷりとした脂肪をゆすって笑った。