
不透明な男
第6章 暖と冷
翔「力抜いて…」
頬は氷の様な冷たさから解放されたが、俺の心臓は未だ冷えきっていた。
ガタガタと震える体を自分の両腕で押さえ付ける。
ぎゅっと掴んだ二の腕には、爪が食い込み血が滲む。
翔「力を抜いて!痛くなるでしょ!?」
俺の固く握られた拳を開かせ、二の腕から離す。
ほどいた俺の両腕の上から、温もりが被さる。
俺はぎゅっと抱き締められた。
翔「大丈夫だから、落ち着いて…」
俺を包む温もりとは裏腹に、氷の刃で心臓を抉られる様な感覚が襲いかかってくる。
胸が締め付けられる。
智「う…く…」
翔「智くん…」
智「く…っ、う」
翔「智くん!」
俺は温もりを振りほどき、胸を押さえて蹲る。
しかし、この温もりは、何度振りほどいても俺から離れなかった。
翔「智くん!」
智「う、う…ぁ…」
翔「しっかりしてよ!」
目を開けろ、俺を見ろと、その温もりは俺の頬を叩く。
俺は、薄く開いた目で温もりの正体を探した。
翔「智くん…!」
智「…しょ…く、ん」
そこには、俺を心配そうに見つめる翔がいた。
