
不透明な男
第6章 暖と冷
強く抱き締めて貰っていると、幾分か気持ちが落ち着いてきた。
それまで翔は、泣かないで、と俺をしっかりと抱き締めてくれていた。
智「…ふぅ…」
翔「落ち着いてきた?」
智「うん、少し…」
そうか、と翔が俺から離れようとする。
だけど俺は離さなかった。
翔「智くん…?」
俺はぎゅっと翔の背中を掴んだ。
翔は、まだ少し震えている手に気付くと、もう一度俺を抱き締めてくれた。
智「行かないで」
翔「…何処にも行かないよ」
俺の涙を翔が拭う。
胸元まで伝った涙を翔の指が追いかける。
翔「これ…どうしたの?」
俺の胸元ははだけ、掻きむしった痕が血で滲んでいた。
翔「自分でやったの…?」
智「…覚えてない」
翔は俺を覗き込む。
俺は震えたまま目を背ける。
翔「だめだよこんな…」
智「ほんとにわかんないんだよ…」
翔「何か…怖い夢でも見たの?」
智「それも…覚えてないんだ」
翔は、俺の頭を自分の胸に押し付けると、俺の頭に顔を埋める。
翔「何があったんだよ…」
智「翔くん…?」
俺を抱き締めた翔が、泣いていた。
