
不透明な男
第6章 暖と冷
智「なんだよも~翔くんの仕業かよ~」
翔「し、仕業って」
智「いくらなんでもコレはやりすぎだよ~」
翔「す、すいません…」
とりあえずシャワーでもしてくれば?と翔をバスルームに追いやると、少しだけ部屋を片付けた。
部屋をウロウロとさ迷い、仕事がある翔の為にコーヒーを煎れる。
翔「あ、なんかすいません…」
智「え?」
翔「や、コーヒーまで用意して頂いて…」
智「なんだよ。また固くなっちゃったの(笑)?」
翔「え」
智「話し方。さっきまで結構タメ語だったよ(笑)?」
お酒の入った翔は、すっかり気が緩んで普段の言葉遣いになっていたらしい。
それをさっきのシャワー中に気付き、これじゃいかん!と気を引き締めて出てきたのだと言う。
智「そんなの気にしなくていいのに」
翔「や、だって、多分僕の方が年下でしょうし、しかも患者さんな訳ですから…」
智「なんだよ今更。おれの事抱き締めて寝てたくせに」
俺はテーブルに伏せて顔を斜めにし、上目遣いで翔を覗き込む。
翔「はっ!え、え!」
真っ赤になった翔が動揺する。
智「なにそれ(笑)」
翔「や、だって、え?俺!?俺なの!?」
智「そうだよ?だっておれ苦しかったんだから」
翔「嘘でしょ!?」
智「んも~むぎゅうううって。離してくんないの」
翔「俺マジか…(泣)」
嘘だよ。
やったのは俺だ。
目を覚ました俺は寝惚けて翔に抱き付いたんだ。
暖かい翔に包まれたくて、俺が翔にしがみついたんだ。
俺の頭上でンゴゴと鼾をかく翔は起きなかった。
それがチャンスだとばかりに俺は、翔の固く閉じた腕をひっぱり出して俺の頭の下に敷いたんだ。
狼狽える翔が可愛くて本当の事は言わなかった。
俺は、翔に嘘をついた。
