不透明な男
第8章 序章
薬を握り締めていた俺は、途端に恐怖に襲われた。
部屋を飛び出し、一目散に松兄ぃの家に戻る。
…はぁ、はぁ、はぁ
ふぅ、と一息つくと、ソファーに沈み込む。
俺の心臓は未だ鳴り止まない。
自分の事なのに、何か、見てはいけないものを見てしまった様な、そんな気分だった。
落ち着かない。心臓が跳ねたまま戻って来ない。
どうしようもないこのもやもやが気持ち悪くて堪らないのに、押さえる術を何一つ持っていなかった。
…ああ、きもちわるい
なんだか苦しいんだよ…
だれか…おれを助けて…
苦しい上にこの部屋は広くて寂しい。
松兄ぃもいないし俺は独りだ。
静まり返る部屋の中心で、俺は独り泣いていた。
ソファーに沈み込んだまま、何の感情かも解らない涙が只々俺の目から溢れる。
なんでこんな時に居ないんだよ…
俺の涙は止まらなかった。