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不透明な男

第8章 序章


…そわそわ…そわそわ…

ってなんだよ

どういう事だよおれ



なんだか翔に会うのが妙に楽しい。
まあ、確かに見てて飽きないし面白いからなと自分を納得させている所に翔が来た。


翔「大野さん、お待たせしました」

智「ううん、全然」


勝手に顔がほころぶ。


翔「何かいい事でもありました?」

智「えっ?や、べつに…」



しまった。顔に出てるっぽい。

仕方ない、こういう時は…



智「翔くんは?なんだか嬉しそうな顔してるけど…」

翔「えっ!」


俺は、頬杖を付きながら小首を傾げて覗き込む。


翔「い、いえ、別に」


そのまま柔らかく笑ってやる。
そうすると、翔は挙動不審になるんだ。


智「そうなの?てっきり彼女でも出来たのかと」

翔「はっ!?そ、そんなの出来てませんよ!」


ほら、鉄板だ。


智「おれが女だったら翔くんみたいな彼氏がいいなあ」

翔「ええっ」

智「は~、なんで男に産まれちゃったんだろ…」


唇を尖らせて上目使いで翔を見る。


翔「おおお大野さんっ!貴方何を…っ」

智「んふふっ」

翔「あ…、だから僕で遊ばないで下さいって言ってるでしょう!?」

智「ぷはははっ」


本当に翔は面白い。
反応が可愛くて、つい遊んでしまう。


智「じゃ、お昼も終わりだろうしそろそろ行くね?」


俺はガタッと椅子から立ち上がる。


智「あ」

翔「…大野さんっ!」


ふらついた俺を翔が支える。


翔「大野さん!大丈夫ですかっ!?」


翔の真剣な表情が、俺の瞳に映る。
鼻先が触れそうな位に近い翔の顔を、俺は目を寄せて見つめる。


智「あ…翔くん、大丈夫だよ…」

翔「本当に…?」

智「うん…ほんと…」


なんだか視線を感じる。
俺はチロッと横目でその視線を探した。


智「翔くん…注目浴びてる…」

翔「へっ!?」


辺りをキョロキョロと見回す翔に、物凄い数の視線が浴びせられた。


智「…ここ、カフェだからね。残念♪」

翔「!?」


そう翔の耳元で囁くと俺はスタスタと歩き出す。


翔「おっ大野さん!体は!?」

智「だいじょーぶー。またねー♪」


真っ赤になったまま呆然と立ち尽くす翔を置き去りに、軽やかに去る。




だって、本当になんともないんだ。


わざとよろけたんだよ?







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