
不透明な男
第8章 序章
兄「ところで、家はいつ見つかったんだ?」
俺の横に腰掛けると、松兄ぃは俺に問いかけた。
智「ちょっと前だよ」
兄「もう行ったのか?」
智「ちょこっとだけね」
松兄ぃは、じっと俺の顔を見ると静かに切り出す。
兄「…何か、分かったのか?お前の事…」
急に真面目な顔をして聞いてくるもんだから、俺は驚いた。
慌てて取り繕う。
智「や、別になんも。普通に若い男の地味な部屋だったよ(笑)」
兄「あの日は…?」
智「あの日?」
兄「お前が泣いてた…、あの日、見付けたんじゃないのか?」
俺はドキッとした。
さっきの驚きを誤魔化そうとした上に被せてくる。
静かにカップを置いたつもりが、カチャンと音を立てた。
智「いや、違うよ。あの日は…ちょっと呑みすぎておかしくなっちゃっただけだよ(笑)」
松兄ぃは、俺の小刻みに震えてしまった手を握る。
兄「じゃあ、何をそんなに脅えてる…」
俺をそっと抱き締めてくる。
俺は、心情がバレない様に必死で取り繕う。
智「違うよ、そんなんじゃないんだ。ほんと、大丈夫」
震える心臓が伝わってしまいそうで、松兄ぃの腕から逃れようと身を捩る。
智「あの日は、ほんと酔っぱらってただけなんだって。」
松兄ぃはもがく俺を離さない。
智「そんで、おかしくなっちゃって。松兄ぃに甘えて…、ごめん。今もだけど(笑)」
兄「智…」
智「おれ、我が儘でごめんね?」
兄「そんな顔させたい訳じゃないんだ」
智「自分勝手でさ…、ほんと、悪いと思ってるよ…」
兄「もういいから、謝らないでくれ…」
俺をぎゅっと抱き締める松兄ぃが、震えていた。
