不透明な男
第9章 もうひとりの俺
『すてるな! by智』
手渡された携帯の裏に貼られたテープに文字が書いてあった。
智「…なにコレ」
東「預かったというか、お前が勝手に置いていったんだよ」
智「へ?」
東「というか、隠していったと言う方が正しいか(笑)」
それが無かったら捨てるところだったと東山先生は笑った。
東「どうりで連絡が取れない筈だよ。どれだけ心配したと思ってるんだ」
智「あ~、んふふ。すんません…」
笑って誤魔化すんじゃないと睨む先生から逃げるように、俺は帰ろうとする。
智「先生、ありがと」
東「大野、隈出来てるぞ。薬…、持ってくか?」
智「大丈夫だよ。まだいける(笑)」
心配そうに俺の顔を見てくる東山先生を安心させようと、俺は笑った。
東「辛くなったら来るんだぞ」
智「わかったよ(笑)」
じゃ、またねと東山先生の家を後にした。
家に着くと早速バッテリーをセットする。
充電を始めながら、俺は両親の事を考えていた。
ややこしいメモ残しやがって
はっきり書けよな…
俺は、この家で生活するようになってすぐ、メモに書かれてあった母親を捜そうとした。
でもすぐに気付いた。
そんなの嘘だ。
あれは、俺の事じゃない。
俺は、ひとりなんだ。
どこいっちゃったんだろうな…
おれの、両親。
それも、もやもやのひとつだった。
理由が分からないんだ。
葬式をあげた訳じゃない、遺体を見付けた訳でもない。
只、何処かに行ってしまったんだ。
俺が最後に見た両親の姿を思い出した。
あれはまだ18歳の頃。
街中で両親を見掛けた。
こんなところで何してんだと、声をかけようと思ったその時、両親の隣に車が停まった。
そして両親は、その黒くて高級感のある車におずおずと乗り込んだんだ。
それ以来、ふたりとも家に帰って来なかった。