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不透明な男

第9章 もうひとりの俺


そんな訳で、何か心にひっかかるものを感じながら、俺の抜け落ちた記憶を探すように毎日を過ごしていた。


そんな俺は、ふとカレンダーが目に入った。



あ、今日は検診日か…



もやもやしてても仕方ないし検診行くか、と家を出る。

先週は検診をすっぽかした。
なんだか、翔に会い辛かったんだ。



まあ、なんだ。

あれは、おれが悪いのか…



とにかく、思い出したい事が思い出せずにイライラしていた俺は、何が変わる訳でも無いが検診に行く事で、気をまぎらわせようとしていた。



「先週はどうしたんだい?調子でも悪かったのかな?」

智「あぁ、はい。すっぽかしてすいません…」

「いや、いいんだよ。君が元気ならね」

智「ふふ、元気は、元気ですよ」

「じゃ、ちょっと冷たいけど我慢して…」


医師は俺に聴診器を当てて心音を念入りに聴く。
冷たい聴診器が胸を這い、俺はブルッと身震いした。


「あぁ、ごめんね。もう少しだからね…」

智「あ、はい」


聴診器をしまうと、俺の脈を取る。
手首ではなく、首の血管に指を這わせる。


「…うん、なる程」


俺の顔をじっと見ると、頬に手を添え瞼を捲る。



なんだこの医者

距離近くねぇか…?



いつもの白髪混じりの医師ではなく、初めての医師だった。
初対面なのに、馴れ馴れしく話してくる医師に少し違和感があったが、患者を緊張させない為なのかなと、特に気には留めなかった。


「はい、じゃあ舌出して」


俺を見る医師の瞳はいやらしく光っていた。
少し気持ち悪かったが俺は素直に従った。


俺がペロッと舌を覗かせると、医師はごくんと喉を鳴らした。



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