不透明な男
第9章 もうひとりの俺
智「ありがとうございました」
「はい、お大事に」
薄気味悪い医師の診察が終わり、俺は悩んでいた。
いつもなら迷わず翔の姿を探すのだが、今日は帰ろうかどうしようかとウロウロしていた。
「大野さん♪」
智「え…、あぁ、こんにちは」
「この間、先輩に何かしました?」
智「え?」
「戻ってきた先輩が腑抜けになっちゃってて(笑)」
智「何もしてませんよ(笑)」
「智くん智くんってうるさかったんですよ~(笑)」
智「ふふっ」
俺のうっかり笑ってしまった顔を見て、看護士が頬を赤らめる。
「ん~、やっぱり違う人だったのかなぁ?」
智「何がです?」
「3日前って、大野さん夜出掛けてました?」
智「いいえ?」
「そっかあ。凄く似てる人を見かけたんですよ」
看護士が言うには、俺にそっくりな人物が居たらしい。
そいつはスーツをビシッと着こなし高そうな車から出てきたと言う。
「顔は凄く似てるけど…、雰囲気がやっぱり違いますね♪」
智「そうなんですか?」
「あの人は、ちょっと冷たい感じの瞳をしていたけれど、大野さんは…」
智「ん?」
「ふにゃふにゃほわほわしてて、可愛い~♪」
智「なんすかそれ(笑)」
「あっ、それですよ、それ!しかもかっこいいし!」
智「恥ずかしいんだから、からかわないで(笑)」
きゃ~♪と看護士が悲鳴を上げる。
その時、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。
智「とにかく、それ、俺じゃありませんからね(笑)」
「みたいですね♪」
智「じゃ、またね?」
「ははは、はいっ♪」
声がした方に振り向くと、そこには翔が居た。