不透明な男
第9章 もうひとりの俺
智「翔くん…、ひさしぶり」
俺をじっと見つめる翔に声をかけた。
翔「お久し振りです。大野さん…」
少し空気が固い、そんな気がした。
智「…どうしたの翔くん?俺が先週すっぽかしたから拗ねてるの?」
固い空気が居心地悪くて、俺は翔を覗き込み、わざとふざけてみせる。
翔「す…、拗ねる訳無いでしょうよ!」
智「ふふっ、良かった。いつもの翔くんだね♪」
翔「ちょっと、もう…」
固かった翔の表情が和らいだ。
智「ランチまだなんでしょ?いこ?」
翔「…はい」
貴方にはかないませんよといった表情で翔は俺と約束をした。
いつもの様に先にカフェで待つ。
しばらくして、翔がやって来る。
翔「お待たせしました」
智「ううん、お疲れさま♪」
俺がニコッと笑うと、翔も笑みを返してくれる。
その事に、俺は少しほっとしていた。
翔「似ている人が居たんですか?」
智「ん?…あ、翔くん立ち聞きしてたの?やらし~」
翔「ひっ、人聞きの悪い事言わないで下さい!聞こえただけですよっ」
翔が慌てる。嘘だってすぐに分かる。
俺の事を気にして、ずっと耳を傾けていたんだ。
智「他人のそら似って奴かなぁ?」
翔「…そんな言葉知ってたんですか」
智「失礼だな、わかるよそれくらい(笑)」
翔「兄弟とかじゃないんです?」
智「おれ、ひとりっこだもん」
翔「思い出したんですか?」
智「たぶんね」
多分て何それと翔が呆れる。
智「世界に3人は居るって言うじゃん。似てる人」
翔「おお…、そんな事まで知ってるんだ…」
智「……おれの事どんだけバカだと思ってるの?」
いくらなんでもバカにし過ぎだろうと笑う俺を見て、翔も笑う。
智「笑ってないであやまれ(笑)」
翔「ぷっ、く、す、すいま…」
智「はぁ、もういいよ…」
涙目で笑いを堪える翔の顔を見ていると、もやもやが少し晴れた様な気がした。