不透明な男
第9章 もうひとりの俺
智「はぁ…、やっぱ翔くんいいよ」
翔「はい?」
智「翔くんと居ると、なんか元気になる気がする(笑)」
翔「…何かあったんですか?」
智「え?」
翔「この間、様子がおかしかったし…」
この間?ときょとんとする。
そしてすぐ申し訳なさそうな顔をして返答する。
智「あ、あぁ…。えっと、ごめんね…?急にあんな事しちゃって…」
翔「いや、そこじゃなく。や、そこもですけども」
智「気持ち悪かったよね…」
翔「そんな訳無いでしょう。僕が言ってるのは」
翔が思い詰めた様な顔をする。
翔「あの看護士との…」
智「えっ、気持ち悪くなかったの?」
翔「や、はい。いや、だから看護士」
智「あ~良かったぁ」
翔「あ、あの看護」
智「もうおれ、嫌われちゃったかと思って」
ほっと胸を撫で下ろす様なしぐさをする。
翔「き、嫌いになんてなる訳無いでしょう!じゃなくて、その前の」
智「翔くんて女装癖でもあるの?」
翔「はっ!?」
智「だって、口紅の味したから」
翔を覗き込む俺の顔を、翔は真顔で見返す。
翔「違いますよ、あれは…ちょっと…。で、大野さんその時」
智「良かったあ、オカマじゃないんだ(笑)」
翔「僕の事はいいんですよ。大野さん貴方あの時看護士と」
智「おれはキスしてないよ?」
ヘラヘラした表情から一転して急に真顔になった俺を、翔が驚いた様に見てきた。
翔「え…」
智「翔くんにはキス出来たのに、なんでだろうな…」
翔「僕が居るの知ってたんですか…?」
へ?なんの事?ときょとんとする俺を見て、翔は目を丸くしたまま少しの間固まっていた。
智「?翔くん?どしたの?」
翔「はっ、いえ、何も…」
智「ヘンな翔くん。じゃ、また来週ね♪」
翔が目を丸くしたまま俺の背中を見つめている。
俺はその視線を受けたまま、病院を後にした。