テキストサイズ

不透明な男

第9章 もうひとりの俺


夜になると、久し振りに相葉ちゃんのバーに向かった。

松兄ぃには酷な事をした。
家を出る前にあんなに甘えて、松兄ぃがもっと寂しくなるんじゃないかと思っていた。

だが、何の事はない。
寂しくなったのは俺の方だった。

大丈夫だと松兄ぃには言ったけれど、やはり夜になると言い知れぬ寂しさが俺を襲っていた。

それでもなんとか身体をちぢこませて眠ろうとしていたのだが、それもそろそろ苦しくなってきた。


俺は、あの柔らかい空間で癒されたくて、相葉ちゃんの店に急いだ。




カランコロン…


雅「あっ大ちゃん!いらっしゃい!」

智「んふ、ひさしぶり♪」

雅「本当だよも~!また何かあったんじゃないかって心配してたんだよ!」

智「そうだったの?ごめんね?」

雅「お、大ちゃんが元気ならいいのっ!」

智「ふふっ」

雅「あの二人はまだ来てないけど、大ちゃんに会いたくてしょっちゅう通ってるんだから、会えたら相手してあげてよ?」

智「わかったよ」


あっそうだLINEしてあげよう、と相葉ちゃんはニコニコしながらスマホを取り出す。


雅「どうしたの?そんなニコニコしちゃって(笑)」

智「や、相葉ちゃんの笑顔っていいなと思って」


もうっからからわないでよ~と、照れながら俺の前に酒を置いた。


雅「もうすぐ来ると思うから、ちょっと待っててね?」


俺にそう言うと相葉ちゃんは他の客の相手をしに行った。


雅「ふらふらしちゃ駄目だからねっ!」


遠くから俺に向かって叫ぶ相葉ちゃんに、笑顔で手をヒラヒラさせた。



ふらふらってなんだよ(笑)

ほんと、心配性だな…



俺はクスクス笑いながらちびちびと酒を呑む。



そんな俺のグラスに酒が継ぎ足された。





ストーリーメニュー

TOPTOPへ