不透明な男
第9章 もうひとりの俺
智「ん…?」
「やあ大野くん、久し振りだねえ!」
智「あ、ああ、おひさしぶりっす」
「ははっ、本当に覚えてるのか?」
誰だか全く分からないがなんとなく挨拶を返してみる。
智「んふふ」
「怪しいな~、いつ来たって全然会えないんだからさぁ。覚えて無いんじゃないの?」
智「ふふっ」
まぁいいや、どうせ何時もの事だと酒を進めてくる。
なんとなくの世間話をしながら酒を呑んでいると、いつの間にか客も多くなり、俺の回りにも人が増えていた。
「お!大野くんじゃないか!」
「やっと会えたよ~!」
「さあさあ、一緒に呑もう」
そんなこんなで俺はおじさん達に挟まれて、あれやこれやと酒を呑まされるハメになった。
智「んっ、なにこれ」
「どうだ!旨いだろ?」
智「きっついよ~。こんなんすぐ酔っちゃうよ」
「いいよいいよ、久し振りなんだから思う存分酔いなさい!」
いやいや無理だろと思いながらもおじさん達の煽りは止まらず、ちびちびと強い酒を呑む。
智「…ひっく」
「んん?酔っちゃったのかなぁ?」
智「んまい…♪」
「おお、さすが智だな!」
おじさん達が沸き上がる。
俺も満更でもなかった。
酒は旨いし、グラスで濡れてしまった手はその都度拭いてくれるし。
ふらふらし始めると、必ず誰かが支えてくれる。
智「んふふ…」
「これ食べなさい。これも、旨いんだから…」
俺が手を汚さなくても勝手にフルーツが口に運ばれる。
俺は、もぐもぐと顎を動かすだけだ。
「どうだ?」
智「んぅ、おいし…」
俺の唇から零れた果物の蜜をおじさんの指が拭い取る。
俺は後ろのおじさんの懐に凭れながら、前から迫ってくるおじさんに唇を丁寧に拭われていた。
至近距離のおじさんは俺の顔を見つめながら、俺の零した蜜がついた指を舐める。
「本当だ、美味しいね…」
智「…近いよ?」
おじさんから距離を取ろうと身を捩る。
そうすると、後ろのおじさんが俺の身体をぎゅっと閉める。
動けなくなった俺に、おじさんは更に近付く。