テキストサイズ

不透明な男

第9章 もうひとりの俺


ぎゅっと俺の手首を掴み、ニノが潤んだ瞳を向ける。

俺は、観念した様にソファーに座り直した。


智「お前…、酔いすぎだよ」

和「酔ってないもん」

智「んじゃ、ひとりで飲めるでしょ?」

和「ほんとは泥酔してる」

智「しっかり話してるじゃん(笑)」

和「むぅ…」


ほっぺを膨らませたニノが急にひっくり返った。


和「ああ気持ち悪い!頭がクラクラするぅ~」

智「え」

和「ああもう駄目だ、早く薬飲まなきゃ」

智「に、ニノ?」

和「目が回ってグラスが掴めないよ~誰か飲ませてくんなきゃ死んじゃうよ~」

智「…ぷっ、なんなんだよお前(笑)」


もう23歳だと言うのに激しく駄々をこねる。
そんなニノがおかしくてつい笑った。

俺はよっこいしょと、ニノを抱き起こす。


智「仕方ないな…。ほら、口、開けて…」


大人しくなったニノは、あ~んと口を開けた。


智「こぼしちゃ駄目だよ?」


口を開けたまま、うんうんと頷くニノに薬を放り込む。

俺は、ふぅ…と一息つくと水を口に含んだ。
ニノの薄茶色の瞳が期待で光る。


和「…ん」


そっと唇を重ねると、水をニノに送り込む。


和「…ごくん」

智「飲めた?」

和「……足りない」

智「へ?」

和「…水が足りないっ!」

智「ん、ほら」


俺はグラスを差し出す。


和「…お口で」

智「もうだめ」


ええ、なんだよそれとまたもや駄々をこねるニノに、少し困った様な顔を向けて話した。


智「もうやめとかないと、俺がヤバくなっちゃうだろ」

和「…え?」

智「だから我慢して?」


頬を赤らめたニノは俺の胸に顔を押し付けてくる。
そして俺の背中に腕を回すと、ぎゅっとしがみついてきた。


和「ほんと、狡いよね…」

智「今頃気付いたの(笑)?」


俺もニノの背中に腕を回すと、頭を撫でながら抱き締めてやる。


智「いつもごめんね…、ニノ…」




そう、いつも。

俺はいつもニノを我慢させてたんだ。

ニノの気持ちを知っていながら、分からない振りをしていた。

ニノの優しさに甘えてたんだ。




そして今も…

俺は思い出せない振りをしているんだ。






ストーリーメニュー

TOPTOPへ