不透明な男
第9章 もうひとりの俺
秘書に呼ばれ、社長室に入ると同時に秘書は部屋を出る。
いつものパターンだった。
社「この間の話、考えてくれたか?」
智「とても有難いお話ですが、やはり僕には…」
社「悪い話では無いだろう?私の専属になれば、他の警護はしなくても良いんだぞ?」
智「しかし僕には学がありませんので…。腕には自信があるのですが(笑)」
社「別に秘書がいるんだからそんなに気にする事は無い」
智「とても良いお話ですが、社長を困らせてしまう事になっては申し訳がありませんので」
確かに専属だと今よりもっと近づけるかもしれない。
捜し物をするにはもってこいだと思った。
社「ううむ…。色々な輩がお前を引き抜こうとよだれを垂らしているものでな。早くまともな契約をしておきたかったのだが」
智「僕を…ですか? 他にも優秀な先輩が沢山いると言うのに…」
社「お前を欲しがる理由は腕だけじゃない。…色々とある様だ」
だが、近すぎるのも危険だ。
幸いこうして気に入られている。
近づくチャンスなんてその気になればいくらだって出来るんだ。
社「…まだ母親の調子が悪いのか?」
智「はい…。なので長時間は働けませんし、ご迷惑をお掛けしますので」
社「そうか…、残念だな」
智「何ヵ月も連絡をしなかった僕に、またこうやって働かせて戴く事が出来て…。その事だけでも充分有難いんです」
社「いや、そういう事情ならウチに戻らせるのは当たり前だろう?」
智「本当にご迷惑をお掛けしました。ありがとうございます」
社「いや、良いんだ。頭を上げなさい」
俺は言われた通り、頭を上げると社長を見てふわっと微笑んだ。
社「困った事があったら、いつでも言いなさい」
智「ありがとうございます」
ふぅ…、息が詰まる。
優しい顔を見せるこの男の本性を俺は知っている。
この男の顔を見るだけで俺は鳥肌が立つんだ。
あぁ…
早く暖まりてぇ…