不透明な男
第9章 もうひとりの俺
自宅に戻ると熱い風呂に入る。
少しも暖まらない身体を押さえ付けて湯船に浸かった。
黒い雫がポタポタと湯船に波紋を広げる。
…あ、先、頭洗わなきゃ
排水口に向かって黒い水が吸い込まれていく。
おれの黒い心も流れてくんないかな…
そんな事を思いながら流れていく水を見ていた。
暖まりきらずに風呂から出た俺は毛布を纏ってベッドに潜る。
冷えた心臓が少しでも暖まる様に、毛布をきつく身体に巻き付けた。
…寒い。寝れない。
んん~もう!とベッドから飛び出る。
急いで着替えると俺は家を出た。
「…おお!智!智じゃないか!久し振りだな!」
「あっ!智さん!いらっしゃいませ!」
智「んふふ、覚えててくれたんだ?こんばんは~♪」
「当たり前じゃないですかぁ!ささ、呑みましょう♪」
智「え、や、他のお客さんほったらかしちゃだめでしょ(笑)」
「でえじょうぶだ!何の文句も聞かん!」
智「オーナー酔ってるんだ(笑)」
前、翔に連れてきてもらった店に来た。
相葉ちゃんの店は昨日も行ったし、あまり頻繁に行かない俺が連チャンで行ったら喜んでくれるだろうけど、たぶん心配する。
どうしたの?何かあったんじゃないの?と、心配そうな顔をする相葉ちゃんの顔が浮かんで、今日は違う店にしたんだ。
「智さん、今日はひとりなんですか?」
智「うん、そうだよ」
「…智はひとりじゃない!俺が…、俺らがいるじゃないか!」
智「オーナーやっぱ酔ってるよね(笑)」
本当さっきから五月蝿いんですよ~とスタッフが呆れ顔で話す。
「うるしゃいだと…?」
「い、言ってない、言ってないっすよ!」
「んにゃろ~~~!」
智「ははっ、あはははっ」
…ガラッ
「あっ、櫻井さん!助けてくださいよ~」
翔「今晩は…って、どしたのオーナー(笑)」
翔の声で振り向いた。
すぐに目が合った。
智「翔くん、いらっしゃい♪」
翔「え…、大野さん?」
智「遅いよも~、オーナーが可笑しくて腹筋痛いんだよ。なんとかしてよ~(笑)」
きょとんとしたまま突っ立つ翔を引き寄せると隣に座らせた。