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不透明な男

第9章 もうひとりの俺


智「んん~、よ、いしょっと」


相変わらず散らかった部屋で足の踏み場がなく、寝室に入りベッドに翔を横たえる。


智「ほら、上着くらい脱がなきゃ」


そんなんじゃ寝辛いだろうと、すやすや眠る翔の腕を持ち上げ上着を脱がしてやる。


智「おっ…もいな…」


やっと上着を脱がせ、一息つく。

ふと翔の顔を見ると、すやすや寝ていた筈なのに、少し眉が歪んでいた。


智「ん?どうした?苦しいの?」


ジーンズのベルトを外してやると、気持ち良さそうな顔をしたもんだから、俺はほっとして布団を掛けてやった。


智「……んじゃ、帰るね。たまには片付けなきゃだめだよ?」


翔の寝顔に声を掛け、俺は寝室を出ようと腰掛けたベッドから立ち上がった。


バサッガタタッ


智「…ん?…寝相も悪いのかよ……」


後ろを振り返ると翔が落ちていた。
仕方ないなぁと翔を抱き起こし、またベッドへ寝かす。
今度は落ちない様にと、奥の方へ押しやり、しっかりと布団を掛ける。


智「よし…と。おれ帰るんだから、もう落ちないでよね?助けてあげられないから…」


じゃあおやすみ、と今度こそ帰ろうと立ち上がる。


智「…うわっ?」


急に後ろから腕を引かれ、ガクンと膝が抜けた。
よろけた俺は、ベッドに肘をついた。

肘をついた俺の下には目を薄く開いた翔の顔があった。


智「…え、翔くん…起きたの…?」


翔は無言で俺をぎゅっと掴む様に抱き締める。


智「え、ちょ…、翔くん?」


翔の上にしっかり抱き締められて、俺は身動きが取れなくなった。

なんとか離れようと身を捩る俺の顔の横には、翔の首筋が見える。


智「どうしたの翔くん。寝惚けてるの(笑)?」


もがいても離れられない俺は、少し困った様な声で翔に聞いた。


翔「…」

智「無言ってなんだよ。まさか寝ちゃった(笑)?」


翔の首元で俺は話す。
翔の耳に俺の息がかからない様に、なんとか下を向いて声を出した。


翔「…起きてるよ」



少し腕の力を緩めた翔は、顔を傾け、俺の顔を覗き込んできた。




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