不透明な男
第9章 もうひとりの俺
俺の下で、目を細めたまま翔は俺を見つめてくる。
智「…なんだよ、ふざけてるの(笑)?」
翔「ふざけてなんか無いよ…」
翔はそう言うと、俺の襟を掴みぐいっと首元を広げた。
智「え、なに…」
翔「虫刺されが無いか調べてるんだよ…」
うん、無いなと翔が呟くと同時に俺の視界は反転した。
ひっくり返った俺はさっきとは逆に、翔の下に組伏せられた。
智「…翔くん、どうしたの…」
細めた目で俺を見下ろす翔と目が合う。
普段見ない翔の雰囲気に推され、俺は目を逸らせなくなっていた。
智「ちょ、ちょっと、待っ…て…」
翔の顔が近付く。
熱い吐息が俺の顔にかかる。
智「ち、近いって、しょ…」
翔「黙って…」
智「…っ、ん」
何が起きたのか俺の唇は塞がれた。
智「ん…っ、しょ、翔…っ」
柔らかく暖かい唇から、熱い舌が出てくる。
その舌で舐められた俺の唇は、擽ったくて力が緩む。
智「んぅ…っ」
翔は無言で俺の唇を貪った。
繰り出される熱い舌で、必死に俺の舌を捕らえようとしてくる。
智「…っ、翔くん…ノーマル、でしょ…」
翔の舌を避けながら俺は必死に声を出す。
智「可愛い…看護士…と、っふ、き、キス…してた…じゃん…」
翔「……見てたの?」
智「んぅ、ふ…」
翔「意外とペテン師なんだ…」
きらっと翔の瞳が光った瞬間、俺の舌は捕まった。
智「んん…っ」
あ、あれ…?
なんだ?
なんか、この感覚、知ってる気がする…
この間、俺からキスしたのとは違う。
それとは違う感覚なのに、何故か今、翔から与えられるキスを知っている様に感じた。
ヤバい、このままじゃ翻弄される。
そう思った俺は、捕まれている手を渾身の力で振りほどき、翔の顔を掴んで引き離した。
智「ぷはっ、はっ、はぁ…っ」
翔「智くん…」
細めた目を俺に向けると、そのまま俺の首筋に顔を埋めてくる。
智「しょ、翔くんっ、一体どうしたんだよ…」
俺の首に息を吹き掛ける翔の体が、重くなった。