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不透明な男

第9章 もうひとりの俺


智「ちょ、翔くんやめ…」


俺の首に熱い息がかかる。
擽ったくて身を捩った。
すると、翔の動きがピタリと止まった。


智「…っ、……ん?」


チラッと翔を横目で見る。


智「え」


俺にのし掛かる翔は、只の重い塊になっていた。


智「やっぱ寝惚けてんじゃねえか…」

翔「ンゴゴ…」


ったく、なんなんだよもう、と翔を剥がす。

いつも俺の掌で転がってた筈の翔が、思いがけず突飛な行動に出た。
その事に驚いて、俺は焦ってしまったんだ。



なんだって俺にキスなんか…



好意があるのは知ってたけど、翔はそんなんじゃないだろうと、俺は不思議で仕方がなかった。



てか

おれだってそんなんじゃ無い筈なんだけどな…



そうだ、松兄ぃとはそんな事になってしまったけど、決して俺は男が好きだとかそういうのでは無い。

そういうのでは、無い筈なんだ。


智「…今、寂しいんだからやめろよな…そういうの…」


すやすやと気持ち良さそうに眠る翔の顔を見て、ついそんな事を口走ってしまった。


智「え、なに言ってんだおれ…。おれは男だぞ…」


なんなんだよおれ、もう訳が分からねえと頭をぶんぶんと振る。


智「はぁ…、とりあえず、帰るよ」


俺はくしゃくしゃと頭を掻くとベッドから立ち上がる。
もう一度翔にしっかり布団を掛けてやり、寝顔に向かって話し掛ける。


智「今の、しっかり忘れとけよ…。おやすみ…」



何故かそう思った。

確かに翔は面白いし楽しい。
それだけじゃなく、一緒に居るとなんだか心地よかった。

俺もついうっかりキスなんてしてしまったけど、そういうのじゃないんだ。

その筈なんだ。

翔も酔っ払った弾みとはいえ、俺にキスしたなんて事実はきっと困る。

翔はそんな事で悩まなくていい。

だから忘れてしまえ。



全部、夢だと思えばいい。



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