不透明な男
第9章 もうひとりの俺
東山先生のもとで意識を無くした俺はなかなか目を覚まさなかった。
所詮闇医者、まともな検査もしてやれない、と東山先生は救急車を呼んだ。
病院で目を覚ました俺は18歳の頃の様に、色々な記憶が抜け落ちていた。
だが、東山先生の介助もあって少しずつ失った記憶を取り戻して行ったんだ。
それは勿論、東山先生が知っているだけの、俺の過去だったけど。
智『あ~…、そうだ、ここだね。おれが倒れたの』
東『本当にお前は…、俺がどれだけ肝を冷やしたと思ってるんだ』
智『んふふ、ごめん』
ふにゃっと笑う俺を見て、東山先生は脱力する。
智『まさかまた記憶を失うなんて思ってなかったんだよ』
東『そうだろうけども。…それで、何があったんだ』
智『ん~…、それが、さ』
東『うん』
智『…わかんないんだよね(笑)』
東『は?』
智『や、なんかさ。真相を突き止めるっての?なんかあんな感じでさ。あ、もうちょっと、ああ、あともう少しで…ってさ』
東『うん』
智『…て、思ってたのは覚えてるんだけどさ。その…、何がもうちょっとなんだかがさ、わっかんないんだよね(笑)』
東『…なんだそりゃ』
智『でしょ?』
顔面蒼白で駆け込んできてブッ倒れた挙げ句、記憶を無くした。
そんな俺が、あっけらかんと笑う。
その事が不思議でならないと、東山先生は困惑していた。
もちろん俺だって困惑してたよ?
だってあの時、凄い勢いで心臓がバクバクしてたんだ。
只走っただけじゃない、あの時の俺の心臓は、今にもはち切れそうに激しく暴れていたんだ。
何を考えたせいで記憶を無くしたのか、それは分からないけど、凄く苦しかった。
只俺は、凄く苦しかったんだよ。
それだけは、はっきりと覚えていた。