不透明な男
第9章 もうひとりの俺
智「師匠~」
家に帰ってシャワーを浴び、服を着替えた俺はある道場に来ていた。
岡「…だからそれやめろって(笑) 岡田でいい」
後ろから呼び掛ける声に振り向いた師匠は、少し驚いた様に目を大きくし、俺に笑いかけた。
岡「久し振りだな」
智「ん、ひさしぶりだ」
ふにゃっと笑う俺の顔を見ると、お前は相変わらずだなと岡田が笑う。
智「最近鈍っちゃってさ、相手してよ」
岡「久し振りにやるか」
なんか知らんがコイツは強い。
言うなれば激強だ。
敵を倒す術も教えてくれるが、俺に襲いかかる悪意を交わす術もしっかり教えてくれる。
智「ちょ、ちょちょタンマ!」
岡「勝負に待ったは無い!」
ヒュッと空を斬る音がする。
ズサッと交わす音、パシッと拳を受け止める音、ブンッと足を振り抜く音。
飛び散った汗はキラキラと光り、濁った瞳が澄んで行く。
智「っ、はぁ、はぁっ」
岡「はぁ、はぁ…、ふぅ…」
智「なんだよ、マジで手加減無いな…」
岡「当たり前だろ、お前相手に手加減なんてしたら俺がやられる…」
少し距離を保ち、俺達の睨み合いが続いていた。
智「あ~もうだめ。休憩しよう、休憩」
岡「もうかよ」
智「…お前だって息あがってんじゃん」
俺は床に座り込むと、岡田を見上げながら言う。
すると、岡田も笑いながら俺の隣に座った。
岡「ったく、どこが鈍ってんだよ」
智「鈍ってるでしょ。だってもうバテたもん」
壁に背を預け、岡田が差し出した飲みかけのペットボトルをの水を口に含んだ。
岡「3年前に始めた奴の動きだとは思えないぞ?」
智「あ~、もう3年になるのか」
岡「まだ3年だよ」
2度目の記憶を失った後、少しずつ過去を取り戻しかけていた俺は、ある噂話を耳にしたんだ。
その時、俺の頭にコイツの顔が浮かんだ。
ヤバい、こうしちゃいられねえ
早くアイツの所に行かなくちゃ…