不透明な男
第9章 もうひとりの俺
智『おかだーーー!』
岡『んん?ああ大野か、久し振りだな。葬式以来…』
智『俺を強くしてくれ!』
岡『…って、は??』
バイト仲間の岡田と会うのは、あの葬式以来3ヶ月振りだ。
久し振り、と挨拶を冒頭に持ってくる訳でもなく、俺がしょっぱち放った言葉は おかだーーー と言う絶叫にも似た呼び声だった。
岡『やっとその気になったのか。どうせ変態オヤジにでも襲われかけたんだろ?だからずっと言ってたのに今頃…』
智『んなこたいいから早く教えろ』
気が焦って早速岡田に掴みかかる。
その瞬間、何故だか俺は宙を舞っていた。
ドサッ
智『いてぇ……? え、え? 今どうなったの?』
岡『はっはっは』
智『くっそ…、笑ってないで教えろ』
あ?教えて下さいだろ?と岡田は腕を組みながらドヤ顔で俺を見下ろす。
智『お、教えてください』
ニヤニヤ笑う岡田に心の中で悪態を付きながらも、背に腹は変えられないと素直に従う。
そんな従順な俺に、まずは護身術だなと岡田は言った。
智『はぁ?んなもんいらないよ。俺は強くなりたいんだ』
岡『投げ飛ばす前に捕まえられたら終わりだろう。お前すぐ襲われるんだから』
智『変態のオッサンなんか俺が笑ってやればイチコロなんだよ。そんなんじゃなくてさ、なんかもっとこう…ハリウッド映画みたいなさ』
岡『闘いたいのか?』
智『あーそんなやつ。闘ったり捕まえたりみたいな』
岡『一体何を目指してるんだ』
智『ん?んーー、ええっと、とにかく強くならなきゃダメなんだ』
一刻も早く強くなりたいんだ、その為ならどんな事でも耐える。頑張るから、早く強い男にしてよと俺は、岡田に懇願した。
岡『そこまで言うならなんとかしてやる。俺に任せとけ』
コイツは俺と同じ歳。
たった23歳の若造が物凄く男前なセリフを吐いた。