不透明な男
第9章 もうひとりの俺
岡「思い返せば、お前は武道をやり始めた頃から凄かったよ」
智「そう?」
岡「基本的な身体能力がズバ抜けてるんだな」
智「そんなのお前もだろ?」
岡「俺は小さい頃から親父のスパルタを受けてたからだ。でも、お前はあっという間に俺と互角に闘えたじゃないか」
智「そんなの…、お前の教え方が上手かったからだよ」
水が足りないなと、岡田が立ち上がった。
その瞬間、俺の耳にヒュッと音が聞こえた。
智「あ…っぶねえ…。不意打ちはナシだろ(笑)」
岡「ふふ、全く鈍ってない…。余裕で避けてるじゃないか」
岡田は、壁に弾かれ床に転がったボールを拾い上げた。
智『ねえ…、いくら野球が好きだからってあんなの普通買う?』
岡『は?』
智『ピッチングマシンだよ』
俺は道場の隅に置いてある変な機械を指差して言った。
岡『あ~、あれは野球用じゃないよ』
智『んじゃ何に使うの』
岡『やってみるか…?』
へ?なにを?とキョトンとする俺を放置して岡田はピッチングマシンを移動させる。
隣の用具室からはあと2台のマシンを持ってきた。
智『3台もあるのかよ…』
もうちょい前に来いと岡田が手招きをする。
岡『そのあたりかな。…よし、いくぞ……』
ヒュッ
智『おわっ!』
俺を囲む様に並べられたうちの1台から豪速球が飛んできた。
智『な、なにすんだよ!危ねえなっ!』
ほほ~避けれるんだ、と岡田は感心していた。
智『ほほーじゃねえよ!なんなんだよ急に!』
岡『この3台から次々と玉が飛び出てくる。それをどれだけ避けれるか……ってのが使い道だ』
はあ?なにそれ意味あんの?と眉をしかめながら聞く俺に対して、岡田は真面目に答えた。
岡『3方向、いや俺も加えて4方向から次々と出てくるんだ。それを余裕で避ける事が出来れば、拳なんて止まって見える』
智『はあ…』
俺は意味がよく分からずに、バカみたいな顔をしていたと思う。
岡『どんな事でもやるってお前が言ったんだぞ?』
智『あ、ああ…』
岡『俺を信じろ』
たまに出てくる男前発言なんなんだよ
そういうのは女に言えってんだ
やはり心で悪態を付きながらも、俺は素直に従った。