不透明な男
第9章 もうひとりの俺
岡「ぶつかったらどんな顔するかとマシンの結構近くに立たせたのにあっさり避けやがって」
智「あっさりなんかじゃないよ。なかなか必死だったよ?」
岡「それでも上達早かったじゃないか。今じゃ後ろから飛んできたって交わすどころかキャッチすら出来るだろ」
智「お前がなかなかのスパルタだったからな。びびってたんだよ(笑)」
岡「何だよそれ(笑)お前は見かけに寄らずストイックだからな。やっぱりお前の努力だよ」
当時の俺は、まあ必死だった。
だってこれが出来なきゃ何も教えられないとか抜かすから、早く色々教えて欲しくてどれだけ集中した事か。
岡「んで、お前は強くなったが一体何の為に強くなったんだ?」
智「何の為って…、そりゃ、変態をやっつける為でしょ」
岡「本当にお前は…。やっぱり分からないな(笑)」
智「それはコッチの台詞だよ。お前こそ何目指してんだ(笑)」
岡田は強い。とにかく強い。
なんか知らんが色々な師範の資格を持っている。
お陰で俺は色々な事を教わる事が出来た。
護身術は勿論の事、空手、柔道、剣道にカンフーやジークンドー、それにボクシングの様な格闘技まで加えた、様々な動きを俺に叩き込んでくれた。
岡「只、俺は格闘が好きなだけだよ」
智「そっか(笑)」
んじゃ汗も流したしそろそろ帰るか、と俺は腰をあげた。
智「ありがと。また来るよ」
岡「おう。いつでも来い」
智「道場、頑張って」
岡「ああ、ありがとな」
3年前はまだ岡田のものではなかったが、1年程前に父親から道場を引き継いだらしい。
23歳のフリーターでは金も無く、月謝なんて払う余裕は無かった。
しかも週1なんてもんじゃ無くしょっちゅう俺は道場に足を運んだ。
月謝を払った所で到底足りないくらいだった。
だが、そんな俺に月謝を要求する事も無く、それどころか自分の知っている色々な術を俺に教えてくれた。
本当に岡田には感謝している。
だってそのお陰で俺は、成瀬を名乗る事が出来ているのだから。