不透明な男
第9章 もうひとりの俺
俺は、社長が取っている豪華な客室に来ていた。
社「大変だった様だな。いや、すまなかった」
智「いえ、大丈夫です」
社長は、先程の黒人との事が心配になって俺を呼びつけたらしい。
社「男に興味は無いと報告を受けていたもんで、安心して雇用したんだがな。どうやら違っていた様だ」
智「そうでしたか…」
社「…怪我は無いか?」
社長は俺の手を掴むと、手首から覗いていた赤い跡を見つけた。
それは、あの黒人が暴れる俺を押さえ付けた為に出来た手形だった。
智「あ…、ふふ、あの方、凄い力ですね?」
少し微笑んで話す。
社長も俺に釣られて笑顔になる。
その隙に、掴まれた手を引っ込めた。
社「お前が来てからもう2年くらいか?まさかとは思うが、今までもこんな事があったんじゃないのか…?」
智「ふふ、それなら大丈夫ですよ。心配には及びません」
社長は再び心配そうな顔を見せたが、すぐに笑顔になってふふっと鼻で笑った。
社「そうだな。お前はそんな見た目をしているが、腕は確かだ。もし何かあっても相手がやられているだろうな」
智「返り討ちにしますよ(笑)」
社長は、ははっと笑うと懐かしむ様な顔をして話を続ける。
社「こんなに華奢で幼い顔をしているのに…、お前がBGの方がいいと言い出した時は本当に困惑したものだ(笑)」
智「ふふっ、あの時の社長の顔、今でも覚えていますよ」
岡田に急速で鍛えてもらった俺は、もうそろそろイケるかと、BGになるチャンスを伺っていたんだ。