不透明な男
第9章 もうひとりの俺
うっすらと記憶を戻しかけていた俺は、意識を失う前、何を思ったんだろう。何を思い出しかけたのだろうと確かめようとしていた。
少しの記憶を辿り、万が一あの男に出くわしてもいい様にと髪をスプレーで黒く染め、綺麗めなジャケットなんてのを羽織り、こっそり男の様子を伺いに来ていた。
あの男の顔を見れば、何か思い出すかな…
そんな事を思い、男の行きそうな場所に毎日の様に足を運んだ。
だが、遠くから男の顔を見ても特に何も思い出せなかった。
そんなある日、あの男の付き人達の会話が俺の耳に届いた。
『新しくBG雇うらしいぞ』
『まだ雇うのか?既に何人かいるじゃないか』
『敵が多いからな。今のBGだけじゃ安心出来ないんだろ』
『結構な腕利きが揃ってるのに…』
『数増やしたいんだろ。大量雇用するって言ってたからな』
なんだBGって…
ボディーガードか?
………
これは、チャンスかもしれないな…
いくら影から男を見ても何も思い出せなかった。
それなら近付くしか無いだろうと、俺は岡田のもとに駆け込んだんだ。
少し武道の基礎なんてのを教えて貰えばなんとかなるかとも思ったが、大量雇用だとやはり腕利きの奴から取って行くんだろう、チビで弱けりゃ採用すらしてもらえないかもしれないなと、俺は岡田のスパルタに本気で取り組んだ。
その間も、あいつのBGをする為にはどうすればいいのかと変装しては男の会社の周りをうろついた。
社『おや…?君は……』
やべえ、見つかった
智『え…?』
社『ああこれは失敬。…君は覚えてないだろうが』
あ、ああそうだ、変装してたんだった
社『3ヶ月程前だっただろうか…。葬儀屋で受付をしていなかったかね?』
智『あ、ああ、はい』
やはりそうかと男は俺の背を叩いた。
社『いや、君にね…、もう一度会いたいと思っていたんだよ……』
男は俺の肩に手を置き、懐かしむ様な目で俺の事を見ていた。