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不透明な男

第9章 もうひとりの俺


智「鳩が豆鉄砲をくらった様な…って言うんですか?そんな顔をしてましたよ?」

社「はははっ、いや本当に驚いたんでな。まさかあんなに腕っぷしが強いとは」

智「ふふ、有り難うございます」






この男に声を掛けられた日、もう一度会いたかったんだ、少し話でもどうかと高級レストランに連れて行かれた。


社『ほら、遠慮しないで食べなさい』

智『い、いえ、こんなご馳走戴く訳には…』


今更何を言っている、君の為に用意させたんだ食べなさいと、進められた料理を口に運んだ。


社『…で、今も葬儀屋で働いているのかね?』

智『あ、いえ…、あれは一日だけのアルバイトでしたので、今は…』

社『アルバイト?きちんと働いていないのか?』

智『ふふ、いい歳して恥ずかしいですが、フリーターなんです』

社『どうりで…、いや、君にもう一度会えないかと何度か付き人を見に行かせたんだが』


どうやらこの男も俺を探していたらしい。
俺もこの男に会う為に変装までしてウロウロしていたというのに、全く可笑しな話だなとつい口の端がクイッと上がった。


社『何が可笑しい?』

智『あ、いえ、おかしいのでは無くて、照れたんですよ。だってもう一度会いたいだなんて…、まるで別れた恋人の様で(笑)』

社『はははっ、いや、気に入った。君はあの子と顔はそっくりだが、やはり違う様だな……』

智『あの子?』

社『あ、ああいや、気にしないでくれ。こっちの話だ』


すっかり気に入られた俺は、また食事をご馳走するよと次の約束を取り付けられた。

なんせ忙しい大物社長だから、スケジュールはほぼ埋まっていて空いている時間は少ししか無かった。

お陰で頻繁に会う事も無く、月に二度程度の約束で済んだ。



そんな何度目かの食事をしている時に、BGになるチャンスがやって来たんだ。



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